予防歯科
予防歯科とは何か
皆さんはどのようなときに歯科医院を訪れようと思われますか?
そう聞かれると多くの人が「むし歯になって痛くなったとき」や「口の中に何か異常を感じたとき」と答えるのではないでしょうか。日本においてはその考え方が一般的でした。つまり「むし歯になったから歯医者に行って治療をする」というものです。しかし欧米においては事情が異なり、「治療」するよりも「予防」する方が一般的です。悪くなってから治すのではなく、悪くなることを予防しようというのです。
治療の前に予防することで得られるメリット
むし歯になってもいないのに歯科医院で治療を受けると聞くと、「どこも悪くなっていないのに行く必要はない」や「病院に行くだけで費用がかかって高くついてしまう」と思う方がいるかもしれません。しかしそうではなく、予防治療をすることで多くのメリットを得ることができます。
むし歯を例に取ると、むし歯は進行の度合いによって治療内容もより高度で複雑になっていきます。ある段階を超えると治療に痛みが出るため麻酔が必須となり、また神経を抜くとなると相当大掛かりになりますし、最悪の場合には抜歯となります。抜歯をした部分を放置すると周囲の歯にも影響を与えるため義歯をしなければなりません。このようにむし歯が進行すると治療による身体への負担も大きくなりますし、費用も期間もかかるようになります。しかし初期段階で発見することができればそもそも歯科医による治療を必要としない場合がありますし、必要だとしても麻酔を用いない初歩的なもので済むことがあります。そのため定期的に歯科医院を訪れることでむし歯を初期状態で発見できれば、かかる費用も期間も少なくて済み、何より歯を最大限健康な状態で残すことができるのです。この観点からトータルで考えると治療よりも予防の方が優れているということができます。
予防治療の内容
ここでは予防治療の代表的なメニューを紹介します。
検診
予防治療の基本は患者様の歯と口の現在の状態をチェックすることから始まります。どこか異常がないかだけではなく、歯並びや噛み合わせなど総合的に確認します。
歯石取り
食事の際の食べかすが溜まるとやがてプラーク(歯垢)となり、それが固まることで歯石となります。歯石は細菌にとって格好の住み家であり、むし歯や歯周病を引き起こす原因となります。しかし歯に強固にくっついているため家庭におけるブラッシングで落としきることはほとんど不可能です。歯科医院では専門の器具を用いてこれらを丁寧に除去していきます。
PMTC
歯の表面を徹底的にクリーニングにすることです。これをすることでバイオフィルムというミュータンス菌が生息する巣を取り除くことができ、むし歯になりにくい体質をつくることができます。また歯の表面が滑らかになり凹凸を減らせるのでプラークや歯石がくっつきにくくなるという効果も得ることができます。
ブラッシング指導
歯科医院においても様々な予防治療を受けることができますが、予防の観点で最も大切なのはご家庭における患者様ご自身でのセルフケアとなります。ブラッシングがそのメインとなりますが、大人になっても磨き残しの出ないブラッシングをすることは難しいといわれています。磨き残しはやがてプラークや歯石となるため、歯ブラシの持ち方から始まり適切なブラッシングを身に着けることでそれらの発生を最大限抑えることが可能となります。
シーラント
プラークや歯石は溝や隙間に溜まりやすいですが、奥歯は見づらいことと歯ブラシが届きにくいことからとくにそれらが溜まりやすいとされています。その隙間や溝をシーラントと呼ばれる歯科用のプラスチックで埋めることで後々むし歯になることを予防します。歯磨きにまだ慣れていない子供に対してよく用いられます。
フッ素塗布
フッ素の歯の表面に塗布すると再石灰化がより促進されてむし歯になるリスクを低くすることができます。フッ素配合の歯磨き粉も市販されていますがその効果は充分でない場合があります。歯科医院による塗布なら高い効果を期待できます。一度の塗布で終わりにするのではなく、定期的に治療を受けることがその効果をより高めることが可能です。
とくに歯自体の抵抗力の弱い子供に対して有効なメニューです。
予防治療によって実現できること
予防治療のメリットとして治療にかかる費用を低く抑え、期間を短くすることができると申し上げましたが一番大事な点は歯(天然歯)を最大限健康な状態に保てるということです。
大きく削る治療はどうしても歯の寿命を縮めてしまいますし、神経を抜いたり抜歯をしたりするともう取り返しのつかない状態に陥ります。歯を長く健康に保つことには多くの効果が期待できます。
食生活が充実する
豊かな食生活を続けるためには健康な歯が欠かせません。スムーズな咀嚼ができない状態だと噛む回数が減ることでさらなるむし歯を発症させたり胃腸に負担を与えたりします。食事自体が億劫になって栄養を充分に取れず、健康を害する事態を招くこともあるでしょう。また咀嚼は脳に刺激を与える効果があり、噛まなくなると脳の機能が弱まってしまうというデータもあります。
今では機能的にも審美的にも天然歯と遜色のない人工歯が多く開発されていますが、それでも天然歯を長く保つことに優ることはないでしょう。
健全なコミュニケーションを続けられる
歯は食事のためだけにあるのではありません。歯が一本抜けただけで発音が不明瞭になることがありますし、呼吸が不完全になることもあります。また顔の印象、表情をつくる際に大きな役割を果たしています。歯がないことで人前で口を開けられない、明るい表情を浮かべたいのにそれができずに周囲に誤解を与えてしまう、発音が曖昧になって伝えたいことが伝わらない、など周囲とのコミュニケーションが不完全になり、それが原因で内に閉じこもってしまう人がいます。
体全体のバランスを保つ
噛み合わせは口の周りだけではなく身体全体に影響を及ぼします。噛み合わせが悪いと肩凝りや片頭痛が起こりやすくなり、また症状が進行すると全身の筋肉のバランスも悪くといわれています。